ユネスコ「世界の記憶」国際登録 2022-2023登録サイクル

(2021年申請)

申請資料


 「世界の記憶」(「世界記憶遺産」から名称変更)は、2011年筑豊の炭鉱記録画(山本作兵衛)の作品群が日本で初めてユネスコ「世界記憶遺産」に登録され大きな話題をあつめました。国内では現在まで6件が登録されています。2015年、私たちは広島市との共同申請で原爆文学資料を申請しましたが、残念ながら国内候補2件に選ばれませんでした。同じ年に国内候補に選定された、国内で通算7件目となる「杉原千畝資料」は、その後国際諮問委員会で不登録となっています。その年には、中国、韓国の申請登録があった件で、ユネスコの中立性・政治的利用が懸念され、日本政府がユネスコに改善を求め、制度の改革が実施されるまで凍結となってしまい、現在に至っています。

 2021年4月、やっと新制度が決まり、8月に「世界の記憶」国際登録申請募集が再開となりました。

 前回取りあげた作品は、栗原貞子『あけくれの歌(創作ノート)』、原民喜『原爆被災時の手帖』、峠三吉『原爆詩集(最終稿)』の3件です。今回はそれらの資料の他、峠三吉の『被爆時の日記』(1945年8月6日~14日)と、『メモ~覚え書~感想』(1945年8月)を追加して申請いたしました。いずれも8月6日直後の惨状を記録し、優れた文学作品として多くの人に読み継がれてきました。これらの作品(記録)を「世界の記憶」に登録することは世界史・人類史的にも重要なことと考えます。その他の被爆資料・惨禍・救援を記録した貴重な資料も含め、後世に残すための作業は急がれます。

 

 2021年10月14日には、14時より広島市役所で記者会見を行い、被爆作家3人の5点の原爆文学資料をユネスコの「世界の記憶」登録に向けて市と共同申請することを報告しました。

 しかしながら、2021年11月10日、国内審査の結果が発表され、またしても国内候補2件に選ばれることはありませんでした。今回の国内審査において選ばれたのは、「浄土宗大本山増上寺三大蔵」(申請者:浄土宗・大本山増上寺)、「智証大師円珍関係文書典籍― 日本・中国のパスポート―」 (申請者:園城寺・東京国立博物館)の2点でした。

 「広島文学資料保全の会」は、原爆文学資料の保全と活用・公開について、広島の小さな市民団体ながら、国際平和と核兵器廃絶を願い、「世界の記憶」(国際登録)を目指して多くの活動を続けてまいりましたが、残念な結果となりました。

選定されるか否かにかかわらず、原爆文学は世界史的な人類の遺産としての価値は高く、何ら変わるものではありません。しかしながら、 国内申請候補2件の中に選ばれなかったということは、広島市民にとっても、 国内外の多くの賛同呼びかけ人にとっても残念でなりません。

  ご支援いただきました国内外の皆さまに、 心よりお礼申し上げると同時に、このような残念な結果をお知らせしなければならないことについて申し訳なく思います。

 

  「世界の記憶」は、人類の忘れてはならない歴史的な文章や記録を保存し、公開するためにユネスコが制定したものです。 今回申請した5つの原爆文学資料は、被爆から76年を経て、その体験の継承が難しくなっていく中で、 国や時代を超えて伝えていくべき貴重な資料であると確信しています。

つまり審査基準で基本的なこととして問われる、

  • 案件の真正性
  • 世界的な価値について

等は条件を満たしていたと思うからです。

 しかしながら、今回も推薦が見送られたという結果を受け止め、2年後、再度申請をするかどうかの方向性を定めるためにも、改めていろいろな角度から分析してみる必要があると思います。

 会としては、 5資料を広島市へ寄託したことで一つの役割を果たした訳ですが、 広島市として今後「資料のより広い有効活用」をし、核なき世界のために役立てていただきたいと思います。

 

 

 

 最後に、2度にわたり応募した申請者として、国内審査委員会の審査や、関係省庁連絡会議の最終決定に至るまでの問題点について、現在感じていることを述べさせていただきます。

 2015年からユネスコ国際諮問委員会においては、「審査プロセスの透明化」や「加盟国間で見解の相違のある申請案件への対応等を論点とする制度改正」が取り組まれ、問題があれば当事国間で対話を行い、帰結迄登録を認めない等の改正が行われました。国内選定においても、審査の公平性、プロセスの透明化の問題は、ユネスコ「世界の記憶」の更なる発展にとって、必要不可欠な課題だと思います。

 しかし、「審査プロセスの透明化」の問題があるにもかかわらず、今回の国内審査の報道発表においては、推薦候補となった案件及び申請者のみを公表し、推薦外となった案件及び申請者は公表しない、とのことです。もちろん、申請した我々に対してもです。

 少なくとも、申請件数や審査結果についての選考委員会の所見の公示をすることは当然のことではないでしょうか。

 

 また前回、日本ユネスコ国内委員会が選定した「杉原リスト」について、その後国際諮問委員会では「申請しない」ということになった原因についても、正式に発表されていません。国内審査の段階ではユネスコに推薦することが決まったにもかかわらず、なぜそれを撤回したのか、などの問題点等は公開されるべきであり、情報の公開と共有は、ユネスコ「世界の記憶」の発展にとっても必要なことと思います。 


申請資料一覧


この度の申請について、中国新聞その他に掲載されました。