ユネスコ「世界の記憶」の選考基準


評価

比較評価及び相対評価

文化的重要性の絶対的な尺度はないことから、選考基準や一般指針の全体的な趣旨に照らし、また過去に登録された記録物、却下された記録物との関連において、当該記録遺産自体の真価を評価した結果、決定される。

 


 

基準

真正性と完全性

この基準は、当該記録遺産が見た目どおりであるかどうかを見るものである。

「真正性」とは、本物であり、それそのものであり、偽物でないこと示す質であり、そのオリジナルの状態を損なっていないことである。主な基準は次の通り。

  • その記録そのものであることや出所は信頼できる形ではっきりしているか(複製や模造、偽造や偽記録物、偽の情報が、全くの善意で、本物と見なされていることもある。また、一件の記録物としての「完全性」とは、全体的でありかつ完全であるという質を指す)
  • 記録遺産の一部が別の場所に保管されていて申請から漏れていることはないか
  • 全てが同じ年代のもので、失われた部分新しく複製物で置き換えられていないか
  • 当該記録物はオリジナルか
  • もしオリジナルでないなら、最も古い写本として知られるものか
  • 当該記録遺産の何パーセント程度がオリジナルの状況のまま残存しているか

これは、対象となる記録物の性質によっては複雑な問題となりうる。視聴覚媒体や電子ファイル、及び中世の写本など、記録物によっては、年代や完全性、保存状態が同様であったり異なったりする中で、様々な異本・バージョンが存在する場合がある。

 

世界的重要性(一義的基準)

国際公記録物館会議(IAC)は、記録遺産が以下の3つの基準のうち一つ以上に合致した場合、世界的重要性を持ち合わせた記録遺産であると考えている。これらの基準のうち一つ以上に該当する旨を説明すること。ただし、一件の申請に対して必ずしも全ての基準を適用させる必要はなく、関連するもののみを選択すること。

 

①歴史的重要性

当該記録遺産は、世界史に関連して何を伝えるものか

(例)

・政治的あるいは経済的発展、又は社会的あるいは精神的活動

・世界史における著名な人物

・世界を変えた重要な出来事

・時代、出来事、人に関連する特定の場所

・唯一の現象

・特筆すべき伝統的慣習

・国家間、コミュニティ間に展開した関係性

・生活様式や文化様式の変化

・歴史における転換点、あるいは極めて重要な発明

・芸術、文学、科学、技術、スポーツ、その他生活や文化に関する卓越した事例

 

②形式やスタイルにおける重要性

ある記録物が手書きの原稿やタイプ打ちの紙媒体の記録という点では特別なものではなくとも、注目に値するような様式や人物とのかかわりを持っている、当時においては革新的な質、芸術性の高さ、または注目すべき特質が示されているなどの物理的特徴。

(例)

・当該記録遺産が、同種のタイプのものでは特に優れた例である

・審美的、あるいは職人技術において顕著な質を持ちあわせている

・新規の、また通常みられない媒体である

・現在では使用されなくなったり別の媒体に取って代わられたりした記録物の形式の例である

 

③社会的、コミュニティ的、あるいは精神的重要性

あるコミュニティが、彼らが愛してやまない(または憎んでいる)指導者の遺産や特定の団体との特定の出来事、事実、場所に関する記録証言と強く結びついている、精神的指導者や聖人と関連のある記録遺産を崇拝しているなど、特定の現存するコミュニティに根差す記録遺産が持っている明らかな重要性。である。その場合、どのような事柄が表現されている記録であるかの情報を提供すること。

 

世界的重要性(相対的基準)

IACは記録遺産そのものが持つ特性について、以下の更なる情報を必要とする。

 

①唯一性、あるいは希少性

独自のもの(その種のもので作成された唯一のもの)、あるいは希少なもの(多数製作された中の現存する数少ないもの)か。だろう。コレクションや原稿、その他の記録物 は、独自のものであったとしても必ずしも希少であるとは限らない。他にも同一ではないが 似たようなコレクションや記録物があるかもしれない。そういった意味では、一定の詳細さが必要となる。

 

②状態

記録物の状態は、それ自体が重要性を証明するものではない場合があるが、登録の適正には関わる。劣化が相当程度進んでいる記録物は、その内容や特性が、修復できない状態まで損なわれている場合、登録にはふさわしくない場合がある。逆に記録物の状態はよくても、保存環境が悪かったり安全性の低い状態で管理されていたりすると、相応のリスクがある場合がある。当該記録物やコレクションの性質によっては、申請書に現在のリスクにかかる認識や修復の必要性の詳細を十分に記載する必要がある。登録された場合は、現在の状況や保管にあたっての安全性をモニタリングする基準が示されることとなる。