峠三吉『心の園』


夕月は み空に泛び

秋蝶 野をさまよひぬ

あはれわが妻は草にかくれ

冷き寝床に眠りぬ

 

よるべなふさまよふ蝶よ

何追ふとうなだれ飛べる

林に来よ 共に求めむ

此の宵に妻の覚むるを

 

汝よとはにわが心の園

黙すなと希ひ仰げば

雲にひろがるなれが笑まひ

山に昏れゆく 香りのしら花