峠三吉『花陰』


花かげの 花かげの

いふに優しき 風のふところ

暖かな 純らかな 眼には尋め得ぬ まどろみ、

眼こねぶりて 睡り耽りて

あおあおと又あはあはと、ゆうぐれの匂いに沐浴する

花の思ひを翳され亨けて 包まれた

気配の跼まり……

微かなこころ……

 

宵闇の 息吹ごもりに

陽のうすれ 地を掠め、そこはかとその裡にさし入れば

奇しく映らひ泛び出づるも

心にあらぬ 花莖の影、

影ゆれて ありとも知れぬ

ものうげの 睫毛のさきに

呼びかはす 山の端と 山の彼方と