峠三吉『コラールのために』


罪あるをみな許しつつ 土にものをば書き給ふ

主の静かなるみ姿の わりなくも胸を去らざる

わりなくも今日を去らざる

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わだかまる雲の切間に わずか開く月の夜空

みぎはには星をちりばめ めくるめく底なき暗さ

ああそが深き渕は 君が御座か

ああそが深き渕は わがゆく国か

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山の上なる巷のごとく 群れ瞬ける誘ひの灯よ

うしろに暗き夜空の闇に 主はわが罪を掲げ給へど

ああわれ弱し 吐息は怯えて戦くむねに涙満つる

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み空の奥に遠ざかる 雲雀の唄に惹かれて

何時知らず我は君(主)とありき

其処は何もあらず

其処は総て満ち溢れゐき

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ふとしも心惹かれ 光漲る野に出づれば

みどりさゆらぐ大地のむねは 息かぐはしく身を包み

春の声もて囁きぬ

「汝 われを愛するか?─」

ああ否 にこやかに笑まはしつつ

輝く御顔ぞ求め給ふ

「汝 われを愛するか?─」

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壮麗なる星座はみづくろひして各々に光を整へ

小さき祈りの家 窓に灯をともす

 

ああ歓びの降誕祭の思ひ出よ

人の世の旅にわが老ふる日も

魂の窓に安らひの灯をともしませ

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人目を避けて十字架の上より

降りまいらす主のしかばね

ゴルゴダの丘に夕べ迫りて風険し

共にかかりしわが罪の体

音も無く釘外されてわが上に落ちかかる

幻にしばしば覚むる夜ぞ暗し

ああ夜ぞ暗く悩まし

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汝わだつみの嵐の如く吠え狂ひ

襲いくる龍巻のごと

友を呼び立ち上るとも

闇を穿ち蒼ざめたる海波の上に

落つる僅かの閃きにも耐え得ずして

醜くも照し出され崩折るる

 

おお 光り 光りよ!

栄光の 光りよ!!