峠三吉『原爆詩集』


巷にて

 

おお そのもの

 

遠ざかる駅の巡査を

車窓に罵りあうブローカー女たちの怒り

 

くらがりにかたまって

ことさらに嬌声をあげるしろい女らの笑い

傷口をおさえもせず血をしたたらせ

よろめいていった酔っぱらいのかなしみ

それらの奥に

それらのおくに

 

ひとつき刺したら

どっと噴き出そうなそのもの!