峠三吉『原爆詩集』


河のある風景

 

すでに落日は都市に冷い

都市は入江の奥に 橋を爪立たせてひそまる

夕昏れる住居の稀薄のなかに

時を喪った秋天のかけらを崩して

河流は 背中をそそけだてる

 

失われた山脈は みなかみに雪をかずいて眠る

雪の刃は遠くから生活の眉間に光をあてる

妻よ 今宵もまた冬物のしたくを嘆くか

枯れた菊は 花瓶のプロムナードにまつわり

生れる子供を夢みたおれたちの祭もすぎた

 

眼を閉じて腕をひらけば 河岸の風の中に

白骨を地ならした此の都市の上に

おれたちも

生きた 墓標

 

燃えあがる焔は波の面に

くだけ落ちるひびきは解放御料の山襞に

そして

落日はすでに動かず

河流は そうそうと風に波立つ