峠三吉『原爆詩集』


盲目

 

河岸におしつぶされた

産院の堆積の底から

妻につき添っていた男ら

手脚をひきずり

石崖の伝馬にあつまる

 

胸から顔を硝子片に襲われたくら闇のなか

干潟の伝馬は火の粉にぬりこめられ

熱に追われた盲い

河原に降りてよろめき

よろめく脚を

泥土に奪われ

 

倒れた群に

寂漠とひろしまは燃え

燃えくずれ

はや くれ方のみち汐

 

河原に汐はよせ

汐は満ち

手が浸り脚が浸り

むすうの傷穴から海水がしみ入りつつ

動かぬものら

 

顫える意識の暗黒で

喪われたものをまさぐる神経が

閃光の爆幕に突きあたり

もう一度

燃尽する

 

巨大な崩壊を潜りこえた生本能が

手脚の浮動にちぎれ

河中に転落する黒焦の梁木に

ゆらめく妻子の残像

 

(嬰児と共の 妻のほほえみ

 透明な産室の 窓ぎわの朝餉)

 

そして

硝子にえぐられた双眼が

血膿と泥と

雲煙の裂け間

山ぎわの

夕映を溜め